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ダークトライアド -強い敵意と攻撃性を持ち、共感性を欠く人々-

「顧客からひどい剣幕でまくし立てられて困った」
「上司が毎日ネチネチ言及してくるので参っている」
「夫は何を話しても自分の話にしてしまい、反応も冷たい」

こんな人は周りにいませんか?
もしくは、あなたやあなたの家族がそうでしょうか。

こんな人たちは、ダークトライアドかもしれません。
ダークトライアドの人は、冷淡で攻撃的であり、人を騙したり傷つけたりすることに躊躇がありません。

ダークトライアドの人は特に対人交流場面で敬遠されますが、一方で社会的に高い地位につきやすかったり、高給取りになりやすかったりするとされています。
ダークトライアドの特徴や原因、利点を説明します。

ダークトライアドとは

社会的に嫌われる3特性を兼ね備えた人を、ダークトライアド(dark triad)といいます。
ダークトライアドを構成する3特性とは、サイコパシー・ナルシシズム・マキャヴェリズムの3つです。

ダークトライアドは応用心理学的な性格概念であり、疾患ではありません。
しかし、その構成要素はパーソナリティ障害と重複しているため、パーソナリティ障害として診断される可能性は高いでしょう。

サイコパシー:利己的・反社会的・衝動的

ナルシシズム:誇大的・賞賛を強く求める・共感の欠如

マキャヴェリズム(権謀術数主義):他者操作・冷笑・搾取・欺瞞

ダークトライアド・チェックリスト

ダークトライアド・チェックリスト
  • 私は誰に何を言ってでも、欲しいものを手に入れる
  • 私は他人からよく「手に負えない」と言われる
  • 私をからかう者はいつまでもその行為を後悔することになる
  • 私は地位の高い重要な人物と親しくなるのを好んでいる
  • 私は自分が受けるに値する尊敬を集めるべき人間だ
  • 周りの人がそう言っているので、私は特別な人間なのだと思う
  • 自分の思い通りになるように、賢く周りの人々を扱いたい
  • 自分の計画が、他の誰かの利益ではなく、自分の利益になるように取り計らっている
  • とにかく、重要な人物は自分の味方に付けておいた方が良い

上記のチェック項目のうち、3つ以上に「当てはまる」場合には、ダークトライアドの可能性があります。

ダークトライアドの特徴

ダークトライアドであることは、リーダーになったとき顕著です。
目的のためには手段を選ばず、他者を駒や道具のように扱い、冷徹に損得を考え、うまくいったときには自分の手柄を最大化し、うまくいかなかったときには自分以外の要因のせいにして、現在の影響力や発言力を維持しようとします。

一方、「ダーク(闇の)」と付いていることからも分かるように、犯罪や社会的苦痛、トラウマや関係の終焉を引き起こすことも多い性質であるとされています。

ダークトライアドを構成している3特性と、性格を構成している5特性(ビッグ・ファイブ)との関連が示されています※1
例えば、ナルシシズムとマキャヴェリズムが高ければ高いほど、協調性は低くなります。
同じく、マキャヴェリズムが高くなるほど、誠実性は低くなります。
反対に、サイコパシーとナルシシズムが高いと、外向性は強くなる傾向にあります。

3特性のうち、ナルシシズムは給与の高さと相関するといわれています※2
ナルシシズムを有していると仕事も認められ、給与が高くなるとも考えられますし、給与が高まれば高まるほど、自信と共に自己陶酔するようになり、ナルシシズムが高まるとも言えるでしょう。

同じ研究では、マキャヴェリズムは地位とキャリアへの満足度と相関するようです。
リーダーとして辣腕を振るってきたことが満足感に繋がり、仕事を続けたいと思ったり、より評価されたいと意欲的になったりするのかもしれません。
地位やキャリアに満足しているからこそ、その立場を活かし、メンバーを傷つけたり苦しめたりすることを平気でするようになる、とも考えられます。

ダークトライアドと人格適応論

パーソナリティの統合理論である人格適応では、パーソナリティ障害は人格の負の側面が強調されたものであるとしています※3
人格適応論においては、パラノ型パーソナリティと反社会性パーソナリティが重複し、2つの特徴が入れ代わり立ち代わり表れるものが自己愛性パーソナリティ障害です。

ダークトライアドを構成する3特性を臨床的な診断基準に照らし合わせると、サイコパシーは反社会性パーソナリティ障害に、ナルシシズムは自己愛性パーソナリティ障害に、マキャヴェリズムはパラノイドパーソナリティ障害に、それぞれ相当します。
アメリカ精神医学会基準での診断名をつけるとすれば、3つのパーソナリティ障害を併発しているような状態と言えるでしょう。

ダークトライアドという概念が提唱されたのが1998年、人格適応論出版が出版されたのが2002年であることを踏まえると、これら3特性の相関性に言及されていることは、当時いたるところで見られたことなのでしょう。
あえてダークトライアドを人格適応論に対応させるとすれば、自己愛性パーソナリティ障害に相当し、治療法も自己愛性パーソナリティ障害へのものが適していると考えられます。

ダークトライアドのメリット

ダークトライアド研究は、通称ジェームズボンド心理学と呼ばれ、そのポジティブな側面を活用できないかに注目が集まっています※4
ダークトライアドを有していても、その特性を活かして社会から必要な資源(運営資金・人手・ポジティブな注目)を得られたり、俳優として成功を修めたりしていることが報告されています。

ダークトライアドの原因

ダークトライアドの人は、社会的成功を修めやすく、収入や地位、影響力も高くなる傾向にあります。ただ、この成功の多くはすぐに終わります。
これは、生物としての交配戦略から説明されます※5

生物として交尾を重視し、早く、多く行えるようにする方針を早産戦略といい、一方、子育てを重視する戦略を遅産戦略といいます。
ダークトライアドはこの早産戦略の方を選択しているとされ、瞬間最大風速を高めるような行動をとっていると考えられます。
注目を集め、協力者を増やし、食料や物資を集めることで優秀であることを示し、交配確率を増やして自身の遺伝子をより多く残せる戦略を重視しているのです。

ダークトライアドと自律神経

犯罪などの反社会的行動と心拍数の少なさには関連がある、と報告されています※6
拍動は自律神経の中の交感神経が担っており、また、心拍数が増えることによっても交感神経が優位に切り替わります。
自律神経と拍動の関係は、互いが互いに切り替えスイッチを担っている、相関関係です。

例えば、皆さんなら、どれくらいの速度で心臓がドキドキしたら、「ドキドキしてる」と認識するでしょうか?
85回/分でも緊張しますか? 90回/分ではどうでしょうか?
100回/分だと多くの人は緊張していると認識するかもしれませんね。

反社会的行動をとれる人は、この「鼓動が速いと感じる値閾値いきち」が高い可能性があります。

ドキドキしているとそもそも認識しないと、交感神経優位にもならず、心拍数も平常時か、それ以下に下がります。
呼吸も落ち着き、手汗も出ず、瞳孔が開いたり手が震えたりもしないため、平常時と同じ感覚で他者を傷つけたり、破壊的なことができたりするのです。
ダークトライアドの人もまた、心拍数の少なさや閾値の高さを備えていると考えられます。

ダークトライアドと関連するもの

ダークトライアドの人がどういった行動をとりやすく、どのような態度を示しやすいかという知見が徐々に増えてきています。
そのいくつかをご紹介します。

サディズム

ダークトライアドを構成する3特性にサディズム(加虐傾向)を追加し、ダークテトラッドと呼ばれることがあります。
サディズムは日常的な残酷さを楽しむ傾向とされ、ダークトライアド以上の反社会的性質であるとされます。
3特性のいずれともサディズムは関連し、特にサイコパシーとサディズムはかなり強い相関を示しました※7

反フェミニズム

女性に対する差別の撤廃や不平等解消を目指す考え方を、フェミニズムといいます。
ダークトライアドは、反フェミニズム的な態度と関連していると報告されています※8
この傾向は男女どちらともに見られましたが、特に男性の方が強く見られたといいます。

ダークトライアドは、「女は男と肩を並べるべきでない」と考えたり、「子を産まないのは女としての責を怠っている」とモラハラしたりする確率が高いと考えられます。

美徳シグナリング

「道徳的に善いことをしている、と周囲に表明すること」を美徳シグナリングといいます。
アイスバケツチャレンジのように、①自分が苦痛を感じていること、②それが道徳的に善いことのためであること、③取り組みを周囲に知らしめること、の3点を兼ね備えている行動を指します。
「自分は善行をしてるんだぞ!」とわざわざ騒ぎ立てるのは空虚である反面、人間として美徳シグナリングをしてしまうのは避けられないものとも言われています。

ダークトライアドは被害者意識を抱きやすいこと、そしてその苦痛を広めやすいことから、美徳シグナリングを行いやすいとされています※9
ダークトライアドは、力を示せる加害者より被害者の方が、より人から支援と資源を引き出せることを知っています。

他にも、ダークトライアドは命令したり力づくで言うことを聞かせたりするような上からの方法だけでなく、嘘泣きしたり弱って見せたりするような下からの方法も取りやすいことが知られており、あらゆる手を駆使して他者を操作すると考えた方が良さそうです※10

まとめ

ダークトライアドはサイコパシーからくる対人攻撃性、ナルシシズムからくる共感性のなさ、マキャヴェリズムからくる冷徹さを併せ持つ、危険な性質です。
周囲の人に苦痛を与え、親密さを築くことにも失敗しやすいですが、その特性を活かして社会的に高い地位に就いたり、高給取りになったりしているケースが多いです。

生存戦略から見ると、早産戦略を採り、短期的な注目と金銭的・人的支援を最大化することで繁殖しようとしていると考えられます。
腕力や生産力の低い者、多くは子どもを長期的に面倒みたり、支えたり、養ったりする戦略を採らないため、親密さや慈愛を「不要」と切り捨てる傾向にあります。

特に海外では、凶悪犯や連続殺人犯は幼少期に虐待を受けていたケースが多く見られ、その影響から自律神経系や脳神経系に障害を有している可能性があります。
自分はダークトライアドかもと思われた方で、社会生活に支障をきたしている場合には、愛着トラウマ治療をご検討ください。

また、身近にダークトライアドと思しき方がいる場合には、その関わりの中でショックトラウマを受けるリスクがかなり高いと考えられます。
パワハラやモラハラの標的になっていた方、かつて親や上司から強い敵意や攻撃性の矛先を向けられていた方は、ぜひ一度当オフィスにご相談ください。

※1 ダークトライアドとパーソナリティ https://www.academia.edu/157853/The_dark_triad_and_personality

※2 悪人は出世するのか、それとも落ちこぼれるのか https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/1948550615609735?rss=1

※3 交流分析による人格適応論, ヴァン・ジョインズ, イアン・スチュアート, 2007

※4 ジェームズボンドは誰だ|スパイ的な対社会的な態度としてのダークトライアド http://www.mysmu.edu/faculty/normanli/jonasonliteicher2010.pdf

※5 ダークトライアドを理解するためのライフヒストリーアプローチ https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0191886911005708

※6 70万人以上の男性における安静時心拍数と暴力的犯罪の縦断的研究 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26351735/

※7 どのようなパーソナリティ特性が古典的いじめやネットいじめと関連しているのか? https://scholarlypublications.universiteitleiden.nl/access/item%3A2868450/view

※8 ダークトライアドとフェミニズムに対する態度の関係 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0191886922003944

※9 ダークトライアド特性の指標となる被害者性のある美徳シグナリング https://www.gwern.net/docs/psychology/personality/psychopathy/2020-ok.pdf

※10 ダークトライアドと他者操作方略の関連 https://www.jstage.jst.go.jp/article/personality/advpub/0/advpub_28.2.3/_article/-char/ja/

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